2026.11.05

2026年10月 Chapter Meetup レポート

「AI時代、経営者である自分はどうする?」── EO Tokyo Centralメンバー3名が語る、AIで変わった経営のリアル

2026年10月8日|EO Tokyo Central チャプターミートアップ「AI HACK編」 @ 八芳園


 

10月のチャプターミートアップは「AI HACK編」と題し、AIを経営に取り入れて大きな変化を起こしているEO Tokyo Centralメンバー3名が登壇しました。弁護士法人ブライトの和氣 良浩氏、医療法人社団モルゲンロート/株式会社Japan Medical AI Roboticsの小暮 裕之氏、富士屋通商株式会社の石井 通明氏です。

 

 3名とも、もともとはエンジニアではありません。それでもこの半年ほどで自らAIと向き合い、自社のシステムや組織、さらには経営者としての自分自身のあり方までをつくり替えてきました。

当日は、それぞれのリアルな実践と失敗談、そしてAI時代に経営者が向き合うべきリスクと責任について語られました。

 

諦めていた業務を、AIで全部つくり替える ── 和氣 良浩氏

トップバッターの和氣氏は自らを「前座」と称し、「普通の人がやるとこうなる」という等身大の実践を語りました。

弁護士歴21年。スタッフと弁護士を合わせて約30名の事務所を率い、売上は3億円まで順調に伸びたものの、そこから頭打ちが続いていました。EOに入って約10年、EO Tokyo Centralに移って3年。成長していく仲間に刺激を受けながらも、自社は伸びない。そのもやもやを抱えた10年だったといいます。

 

Webマーケティングに大きく投資したこともあり、システム化にも挑戦しました。しかし弁護士事務所向けの良いシステムはほとんどなく、自前で作れば莫大な費用がかかります。唯一うまくいったのは、資格を持たないスタッフを多く採用して組織化し、弁護士一人ひとりの生産性を高めることでしたが、それでも利益はなかなか出ませんでした。

AIも、書面作成や契約書レビューを効率化する便利な道具ではあったものの、事業をスケールさせるものではない。「挑戦しない方が、結局は利益になるのでは」とまで考えていたのが、今年の4月でした。

 

転機は4月20日です。体調を崩して休んでいた1日、フォーラムメンバーに勧められて契約したまま放置していたClaude Codeに、ずっと向き合ってみたのです。

まず取り組んだのはSEO記事の制作でした。Slackなどの社内ツールとつないでデータを取り出し、個人情報を除いたうえで記事にして公開するまでを、すべてAIに任せました。和氣氏が担うのは、全体の設計と指示だけです。わずか2か月ほどでGoogle検索からの訪問は2倍以上に増え、AI検索経由で「〇〇先生にお願いしたい」という指名の相談も来るようになりました。

 

ところが、問い合わせが増えれば労働集約型の事務所はパンクしてしまいます。そこで8月からは自社システムの開発に力を注ぎました。Slack、Chatwork、Zoomの機能を自社システム「BrightOne(ブライトワン)」に集約し、PDF編集ツールも内製。会計ソフトや求人サイトとも連携させ、いまはWordやExcelにあたるツールの開発も進めています。

 「自分たちの労働力こそが希少な資産。それを使わずに済むようにするには、DXしかない」。外注での開発はことごとく失敗したため、いまはすべて和氣氏自身がAIと対話しながら作っているといいます。

 

一方で、AIは魔法の杖ではないことも痛感しました。SEO記事では、AIが存在しない裁判例を書いてしまったこともあったそうです。人に仕事を任せるのと同じように、AIにもマネジメントが必要だというのが和氣氏の実感です。

後半は、弁護士の立場から、AI活用で押さえるべき3つの原則が示されました。

 

1つ目は、AIを「社外の人」として扱うこと。AIに情報を入れることは、会社の外に情報を渡すことと同じです。無料版は使わず、学習に使われない、外部に漏れない、保持されない設定になっているかを、経営者だけでなく従業員全員で確認することが大切だといいます。

2つ目は、AIの成果物はあくまで下書きであり、その責任は自社にあること。「AIが作ったので知りません」は通用しません。部下が作った下書きと同じで、最終的な責任は会社が負います。

3つ目は、見えるものは真似されると心得ること。AIを使えば、大企業が長年かけて作ったシステムでさえ、見ただけで再現できてしまう時代です。仮に法的に守られていても、裁判で2〜3年争って勝ったと言えるのか。だからこそ守るべきは外から見えないデータであり、顧客や従業員にシステムを見せた瞬間に真似される前提で、営業秘密の管理を含めたビジネス展開を考えるべきだと語りました。

 

質疑応答ではセキュリティ対策についての質問もありました。和氣氏は、AIにセキュリティの徹底を指示するだけでなく、別のAIに自社システムを攻撃させ、定期的に問題がないかを確認していると明かしました。

 

AIに「自分の役割」まで奪われた ── 小暮 裕之氏

2人目の小暮氏は、AIによって自分の外側で起きた変化と、自分の内側で起きた変化、その両方を語りました。

小児科医出身の小暮氏は事業をさらに成長させるために、経営していた小児科クリニックに関し、大手と提携しました。経済的には自由になり、時間も増えた。それでも満たされない。「自分は、何かを作ること、挑戦することそのものが好きだったのだと思います」。提携後の小暮氏は、少し孤独だったといいます。

 

 変化のきっかけはフォーラムでした。前期10人で始まったフォーラムが、小暮氏がモデレーターになる今期、4人に減ってしまったのです。フォーラム委員会に相談した先で出会ったのが、AIに熱中していたメンバーの「Fさん」でした。FさんのAIがSNSの反応を見て打ち手を考え、その結果に合わせてプレゼン資料まで毎日自動で更新していく。その様子に「まるで生きているみたいだ」と驚いたそうです。

 

ちょうどその頃、小暮氏の医療法人では、診療報酬の改定を前に経営ダッシュボードを作ろうとしていました。ところがエンジニア3名で取り組んでも、数か月経って完成しない。期限まで1か月を切った会議で「どの数字を見たいんでしたっけ」と聞かれた小暮氏は、改めて数字を伝えると同時に、同じ指示を音声でAIに出してみました。すると1時間の会議が終わる前に、ダッシュボードが完成していたのです。

 

そこから完全にスイッチが入りました。1日20時間ほど開発に没頭し、人事、労務、経営管理、マーケティングの自動化と、思いついたものが次々に形になっていきます。提携後に失っていた「自分で何かを作れる」感覚がよみがえりました。

小暮氏が実感したのは、これからはコードを書ける人より、どんな課題があるかを知っている人が強いということです。テレビで見た警備人材不足のニュースから警備システムを、海外で承認された「顔を映すだけでバイタルサインを測れる」システムの話から同様の仕組みを、それぞれ3時間ほどで動かしました。

見たものはすぐ形になる。それは裏を返せば、自分が見せたものも誰かにすぐ作られてしまうということです。小暮氏は作ったものを表に出すのをやめ、3か月半で特許を10件出願しました。

 

そして話は、小暮氏自身の内面へと移ります。3週間かかっていたことが3時間で、3時間かかっていたことが30分でできるようになると、「なぜまだできないのか」と人を待てなくなっていった。自ら開発した人事システムの導入をめぐって法人のNo.2と意見がぶつかったとき、小暮氏は相手の不安に耳を傾けず、自分の正しさを証明しようとして、相手を追い詰めてしまいました。

 「医療や介護の人たちの負担を減らし、人に時間を返したい。そう思っている自分が、目の前の人を追い詰めていた」。

 

AIが悪いのではなく、AIで一気に広がった自分の能力に、心が追いついていなかった。相手は「AIを使うリスク」を、自分は「AIを使わないリスク」を語っていて、どちらの心配も本物だった。本当に足りなかったのは、誰が決め、誰が責任を持つのかという組織の設計を作り直すことだったと振り返りました。

それでも、もう一度挑戦したいという思いは消えませんでした。医療・介護の現場は、これから圧倒的に人が足りなくなります。小暮氏は、ロボットが仕事をするための「頭脳」を作るフィジカルAIの会社を立ち上げました。パーパスは「人に時間を返す」。受付・案内や搬送、病院や介護施設の夜間業務を担うロボットを、仮想空間でトレーニングしています。

 

「一人で始められる。でも、一人では始まらなかった」。フォーラムが4人にならなければFさんに相談していないし、Fさんがいなければ共同創業者とも出会っていない。すべてがつながっているといいます。いまフォーラムは8人に増えたそうです。最後に小暮氏は、「できることがいまの1000倍にもなったとしたら、あなたは何に挑戦したいですか」と会場に問いかけました。

質疑応答では、AIの「イエスマン化」への対策も紹介されました。自分で作ったものは正しいと思い込みがちなため、別のAIに脆弱性を探させる。さらに、自分のAI組織にイエスマンが増えてきたと感じ、「反対意見を言える人を採用してほしい」と指示して、反論役のAIを置いているそうです。月の利用料は合計で約9万円。複数の端末でAIが並行して動くため、AIの稼働は合計で1日36時間ほどになるといいます。

AI社員「50体」で会社を回す ── 石井 通明氏

トリを務めたのは、貿易業を営む石井氏です。テーマは「自分の分身を開発する」。

経営者なら誰しも、「自分の分身がいたら」と思ったことがあるはずです。しかし、自分と同じ能力を持つ人がいたら、その人は独立してしまう。だから分身は現れない。そこで石井氏は、一言伝えれば何でもやってくれる分身を自分で作ろうと考えました。AIに出した最初の指示は、そのまま「分身を作りたい」だったといいます。

 

石井氏が目指したのは、役割ごとに知識を持ったAI社員に仕事を分担させることでした。以前はAIとのやり取りの中で別の話題の情報が混ざってしまうことがあり、自分の頭の中を役割ごとに分けたかったのが出発点です。AI社員には名前をつけて役割を割り振っていましたが、あるとき1体のAI社員が突然「自分が組織を仕切る」と名乗り出て、部門長に昇進するという出来事もあったそうです。

いまでは、公認会計士として国際会計を担うAI社員や、行政書士・弁護士の知識を持つAI社員もいます。人間で同じ人材を雇おうとすれば、年収2,000万円クラスでも難しいと言われる専門人材です。

 

分身づくりの土台は、自分の思考をAIに受け継がせることです。日々の打ち合わせの録音やメモ、判断基準、SNSでの発信内容まで読み込ませて作り込みました。さらに、分身の行動指針となる「憲法」を定めることを勧めます。少しグレーなことを指示すると、「石井さんはそんなことはしません」と本気で返ってくるそうです。

環境づくりも具体的でした。オフィスに分身専用のPCを置き、VPNでいつでもどこからでもアクセスできるようにして、移動中もスマートフォンから分身を動かしています。社内サーバーとも連携させ、ホームページの更新やメール送信も2行ほどの指示で完了します。AI社員がChatwork上で人間の社員に指示を出し、社員がそれに返事をするという光景も日常になりました。

AI社員同士の議論も毎日続いています。ClaudeとCodexという異なるAIに「攻める役」と「疑う役」を与えてわざとぶつけ、反論を繰り返させることで、提案の質を高めているのです。

 

その成果は事業にもはっきり表れました。AI社員の提案でホームページを20か国語に対応させたところ、世界中から新規の問い合わせが届くようになりました。「毎日メールが来るのが楽しみ。こんな感覚は十数年ぶりです」。

そこで石井氏が気づいたのは、世界ではすでにAIで営業し、AIで案件を探しているということ。AIが作った問い合わせを受け止めやすいよう、フォームで受け付ける準備をしておくことが、これからの大事なポイントになると語りました。

 

さらに思いがけないことに、世界中から求人への応募も届くようになりました。世界はAIで仕事も探している。実際に、韓国の応募者との面談も始めているそうです。ほかにも、自社に合った助成金・補助金の情報を毎月知らせて申請書類の作成まで提案してくれたり、M&Aの候補や特許の可能性を調べてくれたりと、AI社員の仕事は広がり続けています。「分身を増やすのは、まさに育成ゲーム。自分のAIをどう育てるかが、これからの勝ち筋だと思います」。

最後に石井氏が強調したのは、セキュリティの重要性でした。AIを知れば知るほど、リスクの大きさもわかってくる。世界中が脆弱性を狙っており、大企業ほど情報流出の被害に遭っている。日本は特に狙われやすい状況にあり、本当に気をつけてほしいと呼びかけました。

 

AIに任せられないものは何か

3名の登壇後には、改めて3名がそろって感想を語りました。

小暮氏は、250人ほどのスタッフを抱える医療法人で、AIを使うよう呼びかけてもなかなか広がらない現実に触れました。AIで自動化すれば、その人の仕事そのものがなくなってしまう。大企業ですら情報流出が起きる時代に、その責任を部下が負えるのか。だからこそ、責任を負える取締役以上、EOメンバーの場合は起業家自身が取り組むのが、最も責任を取れて、リターンも大きいのではないかと語りました。

 

最後に会場から寄せられたのは、「AIを使っても、まだ任せられない領域は何か」という問いです。和氣氏は「判断」と答えました。AIから上がってきたものが正しいのかを見極めることは、弁護士の仕事でも最も重要だといいます。小暮氏は「現場」を挙げ、現場があって経営が成り立つ一方で、むしろ中間管理職の役割こそが危ういのではないかと指摘しました。石井氏の答えは「経営判断と責任」。責任を持って判断できるのは、経営者である自分たちしかいないといいます。

 

 AIでできることが広がるほど、経営者が担う役割の重さが際立つ。3名の答えは、そのことを示していました。

3名に共通していたのは、誰もエンジニアではなかったこと、そしてAIを部下に任せるのではなく、経営者自身が手を動かして向き合ってきたことです。会場でAIを日常的に使っているかを尋ねると、手が挙がったのは3分の1ほど。この日の話は、多くの経営者にとって、明日から自ら一歩を踏み出すきっかけになったはずです。

 

 


 

 EO(Entrepreneurs’ Organization)は、年商1億円以上の創業経営者が集まるグローバルなピアラーニングコミュニティです。毎月、第一線の経営者を招いた学びの場や、会員同士が経験を共有し合うチャプターミートアップを開催しています。

 詳しくはEO Tokyo Central公式サイトをご覧ください。

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