2026年9月 Chapter Meetup レポート
「公益資本主義」が会社と社会を強くする ── 原丈人氏が語る、これからの経営
2026年9月10日|EO Tokyo Central チャプターミートアップ @ 八芳園
9月のチャプターミートアップは、「公益資本主義」の提唱者として知られる原丈人氏をゲストに迎えて開催しました。
原氏はシリコンバレーを拠点に数多くのテクノロジー企業の創業・経営に携わり、米国や日本の政府機関でも助言を行ってきた事業家経営者(説明:投資のための投資はしたことがありません。何かをおこすために出資はしますが、その目的は、講演で話したようにファイナンシャルリターンではありません。一番の目的は、新しい技術を実用化し事業化し産業を生み出すことにを目的としています。)です。
株主の利益だけを追うのではなく、会社を支える社員、顧客、取引先、地域社会、地球環境といったすべての「社中」に利益を還元する経営を、世界中で説き続けています。

講演に続く対談には、さくらインターネット株式会社 代表取締役社長の田中邦裕氏、株式会社LIFULL 創業者の井上高志氏が登壇。原氏の考えを実際の経営に取り入れてきた二人の実践と、原氏から起業家への力強いメッセージが語られました。
株主のための経営から、社員と顧客のための経営へ

田中氏が語ったのは、公益資本主義に出会う前と後で大きく変わった、さくらインターネットの歩みでした。
2005年に上場した同社は、株主から成長を強く求められる中で、本業以外の領域にも次々と M&Aで手を広げました。しかしその多くが失敗し、2007年には債務超過に陥ります。当時は、利益や株価を強く意識し、とことんコストを切り詰める経営だったといいます。
転機は2014年、原氏との出会いです。そこから田中氏は「いろいろなものを捨てた」と振り返ります。非正規雇用中心の体制を見直し、人材への投資や平均給与の引き上げに取り組みました。2011年に始めたクラウド事業も、海外製品を買ってくるのではなく自社開発にこだわりました。
利益を削って社員や設備に投資すれば、短期的には利益が下がり、株価も下がります。それでも原氏は「株主を無視せよ」と言っていたわけではなく、「公益資本主義を貫けば、長期的には株主も必ず得をする」というロジックで語っていたといいます。実際に、同じ時期に原氏の話を聞いて研究開発への投資を強めたサイボウズの青野慶久氏の会社は、その後、企業価値を大きく伸ばしました。
さくらインターネットにも、その後何度も試練が訪れました。業績が伸びると再び目標達成に追われて株主資本主義に傾き、海外の巨大クラウド事業者との競争で苦戦し、投資を控えて低迷した時期もあります。それでも2023年頃に「投資しない会社はダメだ」と改めて舵を切り、再び大きな投資に踏み切りました。
象徴的なのが、ガバメントクラウドへの挑戦です。
同社は2023年からガバメントクラウドへの採択を目指して、先行して大規模な投資を続けていました。短期的な収益性を重視する企業であれば、判断が難しい投資だったかもしれません。
それでも田中氏は「10年単位で考えれば必ず報われる」と語ります。2011年に提供を開始した国産クラウドサービスは、長期にわたる開発と投資を経て、2026年に令和8年度ガバメントクラウドに採択されました。
この時間感覚こそが、原氏の説く長期の経営そのものだといいます。
困難な局面においても、田中氏は短期的な株価への影響ではなく、お客さまや社会に対して誠実に向き合うことを重視したと振り返りました。その言葉に、会場の経営者たちも深くうなずいていました。
「社中」への還元を仕組みにする

続いて井上氏が、原氏の考えを経営に取り入れるうえでの考え方を語りました。
「ステークホルダー」は「利害関係者」と訳されることが多いものの、原氏から「本当は利害ではなく、同じカンパニーの仲間、つまり『社中』だ」と教わったことが大きな気づきになったといいます。
ユーザー、顧客、従業員、取引先、株主、地域社会、地球環境。会社を取り巻くすべての社中をバランスよく満たしていくことこそが、経営の本来の姿だという考え方です。社中とは「志を同じくして、事業を成功に導く仲間」のことを指します。
井上氏が強調したのは、その考えを経営者個人の思いにとどめず「仕組み」にすることでした。短期の利益を優先したくなる局面でも中長期の投資を削らずに済むよう、判断の拠り所をあらかじめ社内のルールとして定めておく。そうしておけば、社長が交代しても経営の軸はぶれません。
「フェアウェイからOBゾーンに行かないための仕組み」という表現に、会場からも納得の声が上がりました。
起業家へ、そして日本が世界で果たす役割

対談の締めくくりに、原氏は会場の起業家たちへメッセージを送りました。
「起業家は、とにかく思いきり儲けること。そして儲けたお金を株主へな真っ先に配分するのではなく、社員に、未来への投資に、設備投資に回す。これをやっていれば、株価は黙っていても上がります」
一方で、短期で高いリターンを求める資金の流れは、実業への投資ではなく投機を生み、やがてバブルとその崩壊を招くと警鐘を鳴らします。
膨れ上がったバブルが破裂する、ゼロサムゲームという現象がおこり、その結果として起きるのは、中間層の富が富裕層に吸収されスーパー富裕層を作ると同時に、富を吸い取られた中間層は、貧困層へと没落し、中間層が消えていく社会。
原氏が暮らすサンフランシスコはまさにその状態にあり、AI関連企業が集まり株主やオーナーは莫大な富を得ている一方、かつての豊かな中間層はいなくなってしまったといいます。このようにして株主資本主義を経済ルールとする国々は、経済格差が広がります。
原氏が公益資本主義の原点として語ったのが、明治時代に祖父が創業した会社の経営でした。「『社員が病気や事故で亡くなると、残された家族が困らないよう奥さんを採用し、しっかりと育てた。工場では現場の環境改善を何よりも優先し、一番良い椅子は一番長く座って働く社員のために用意し、社長や重役は折りたたみ椅子を使えばよい』と言っていました。「トップがそうしていれば、社員は見ています。それが良い社風をつくるのです」。
幼い頃に見て触れたこうした経営が、公益資本主義という考え方の土台になっているそうです。
そのうえで原氏は、日本の役割について語りました。日本は世界的に見ても、比較的分厚い中間層を持つ国です。その日本が、健康で教育を受けた豊かな中間層を守り、国民が生き生きと暮らせる国であり続けることを示せば、国連加盟193カ国の中で憧れの的になれる。経済力や軍事力で米国や中国と同じ土俵で競うのではなく、イソップ寓話「北風と太陽」の太陽のように、違う土俵で世界を惹きつける国を目指すべきだと語ります。
そのための具体的な行動として、制度をつくる省庁に意見書を出すことや、地元選出の国会議員に手紙を書くことも勧めました。「同じ意見が20件ほど届けば、議員は動かざるを得ない。その流れを、ここにいる皆さんからつくれるはずです」。
米国共和党のビジネス諮問会議の名誉共同会長に任命されたり、中華人民共和国の政治家や、官僚を対象に、共産党中央党校が、公益資本主義を説く書籍を出版したり、アフリカ54か国中21か国が加盟するアフリカ最大の自由貿易圏のCOMESAの首都のあるザンビア共和国の大統領特別顧問や、国連政府間機関の特命全権大使に就任したり、原氏のもとには世界中から依頼が集まっています。
それは原氏が、資本主義か共産主義かを問わず、どこでも普遍的、且つ理念に基づいたことを言い続けているからではないか。井上氏 モデレーターのこの言葉に、会場は大きな拍手に包まれました。
会場との質疑応答

対談後の質疑応答では、会場から次々と手が挙がりました。主なやり取りを紹介します。
これから株主を迎える経営者からは、短期的な利益を求める投資家と、中長期の視点で公益資本主義を共に目指してくれる投資家をどう見極めればよいか、という質問がありました。
原氏の答えは明快です。「今日のような話を、株主と正面からすること」。その株主が会社の成長や社員のことを本当に考えているのか、それとも売り抜けが目的なのかを徹底的に見極める。売り抜けを前提とする投資ファンドからの資金は受けない方がよく、そうした資金を入れると多くの場合、創業経営者は経営から外されてしまうと語りました。
公益を優先すると株価が上がりにくくなり、海外からの敵対的買収のリスクが高まるのではないか、という問いもありました。
原氏は、会社同士が互いに支え合う株式の持ち合いによって市場に流通する株式を減らすなど、株価を守る方法はあると指摘。そのうえで、アクティビストを呼び込んで経営者に緊張感を与えようという発想を「平和な町に泥棒を入れて、鍵をかけさせるようなもの」と例え、むしろ社員への分配や未来への投資を着実に行う会社に税制上の優遇を与えるなど、プラスのインセンティブをつくるべきだと述べました。
原氏が掲げる「天寿を全うするまで健康に生きられる社会」の実現に向けて、いま日本に足りない技術は何かという質問には、がんや難病の治療、失われた視力の回復、車椅子の人が再び歩けるようにする技術などを挙げました。
原氏はこうした分野の企業を世界中で支援し、株主として共に経営に携わっていると語り、その取り組みをやり遂げたいと力を込めました。
資金調達の場で必ず問われる「EXITをどうするのか」という質問にどう答えればよいか、という地方発のスタートアップ経営者の問いには、「会社の未来をつくり、良い商品・サービスで儲け、その利益で社員を豊かにする。その現れとして企業価値も株価も上がる。このストーリーを投資家に納得してもらうこと」と回答。
「あなた自身が本当にそれを信じていなければ、人は説得できません。熱意は磁石です。本気の熱意には、たくさんの人が引き寄せられてきます」と背中を押しました。
テクノロジーが戦争などの望ましくない用途にも使われる中で、投資先をどう判断しているのかという問いには、「自分が実現したい社会の姿に合致するかどうか」を基準にしていると回答。
原氏は共同創業者として経営に入り、自ら社風をつくることを重視しており、翌年の上場や短期の値上がりを目的とした出資は決して行わないといいます。かつてのシリコンバレーでは、ベンチャーキャピタルはアイデアの段階から資金を出していたが、時代とともにプロトタイプ、顧客、そして利益を求めるようになり、マネーゲーム化していった。だからこそ、本質を見ようとしない投資家に対しても、堂々と自分の考えを語ってほしいと締めくくりました。
周りの人に親切に
最後に一言を求められた原氏は、「周りの人に親切にすること。子どもたちにはいつもそう教えています」と穏やかに語りました。世界中を飛び回る多忙な日程の合間を縫い、この日のためだけに十数時間の滞在で来日したという原氏。
会社は株主のためだけにあるのではなく、社中すべてを豊かにするためにある。そのシンプルで本質的なメッセージは、会場の経営者一人ひとりに、自社の経営を見つめ直すきっかけを与えてくれました。

EO(Entrepreneurs’ Organization)は、年商1億円以上の創業経営者が集まるグローバルなピアラーニングコミュニティです。EO Tokyo Centralでは毎月、第一線の経営者を招いた学びの場や、会員同士が経験を共有し合うチャプターミートアップを開催しています。詳しくは当サイトの「入会方法」ページをご覧ください。


