2026.04.17

2026年4月 Chapter Meetup レポート

Best Practice Share 急成長企業編 ── 成長率アワード受賞者が語る「突破の瞬間」

2026年4月9日|EO Tokyo Central チャプターミーティング @ ザ・リッツ・カールトン東京

4月のチャプターミーティングは「Best Practice Share 急成長企業編」。EO Tokyo Centralの成長率アワードに選ばれた3名の経営者が、急成長の裏側にあった葛藤・失敗・意思決定を赤裸々に語りました。モデレーターは株式会社FREEDiVE代表の今井渉平さんが務めました。

登壇者はいずれも桁違いの成長率を叩き出した経営者ばかり。しかし3人が口を揃えて語ったのは、華々しい数字の裏にある泥臭い決断の連続でした。

第1ピッチ:黒﨑賢一さん(株式会社TOKIUM)

「新卒チームが切り拓いた、SaaSからAIエージェントへの転換」

TOKIUMは2010年創業の経費精算・請求書受領のプラットフォーム企業です。黒﨑さんが語ったのは、会社の歴史の中で訪れた「2つの壁」を、いずれも新卒の力で突破してきたという経験でした。

最初の壁は、個人向け家計簿アプリから法人向け経費精算への転換期。筑波大学の学生アパートで始まった会社は、レシートをデータ化する技術を持ちながらも、個人向けサービスでは収益化できずにいました。転機は、あるキー局の担当者との焼き鳥屋での会話。「システムとかどうでもいいからさ、領収書の原本を回収してくれないか」、この一言から、レシートを撮ってポストに入れるだけで経費精算が完了するというコンセプトが生まれます。

しかし、パワーポイント1枚にまとめたこのコンセプトを、営業メンバーは信じてくれませんでした。「経費精算って撮って完了しないから」「大事な書類を会社が10年保管するんだよ」と。黒﨑さんが会議室で思いを伝えた時、心を打たれたのは新卒の社員だけでした。その新卒社員がパワポ1枚を持って営業に行き、入社3ヶ月目で上場企業を受注。「今のサービスではなく、ビジョンを買いたい」と言われたのです。それに火がつき、中途メンバーも動き出して、事業は大きく成長しました。

2つ目の壁は、SaaSからAIエージェントへの転換です。SaaS市場全体がマルチプルの下落に見舞われる中、顧客からの期待は「システムで業務を便利にする」から「業務そのものをなくしてほしい」へと変化していました。「画面すら見たくない」「自動でやってくれるんでしょ」、そんな声に応えるため、黒﨑さんはAIエージェント企業への転換を決断します。

ここでも鍵になったのは新卒でした。 文系でも開発経験がなくてもいい、ただし「体育会で性格が良くて、めちゃくちゃ頭が良いやつ」を集めました。AIエージェントのコーディングツールを渡し、とにかくたくさん作る。開発経験のない若手がリーダーになりながら、わずか数ヶ月で多数のAIエージェントをリリース。経費精算の承認、請求書の照合といった「誰もやりたくない、でも現実に存在する小さな業務」を一つずつAIエージェントに置き換えるアプローチが、顧客から高い評価を受けています。

黒﨑さんが今進めているのは「フルスタックビルダー」という人材育成方針です。営業だけ、エンジニアだけではなく、自分で売り、自分で作り、自分でサポートもする。営業メンバー全員がClaude Codeを使い、エンジニアは毎日商談に出る。GoogleやFacebookが新卒をプロダクトマネージャーに据えてきた思想を、日本の現場で実践しているのです。

質疑応答では、既存エンジニアからの反発にどう対応したかという問いに、「セキュアなデータ管理は熟練の人たちが守る。新しいチャレンジは新卒が担う。この役割分担で、むしろベテランのプロ意識が高まり、新卒に積極的に教えてくれる関係性が生まれた」と印象的に語られる場面となりました。

第2ピッチ:坂梨亜里咲さん(mederi株式会社)

「エゴを捨てて勝ちに行く、成長率アワード1位の裏側」

mederi株式会社は、生理に悩む女性と産婦人科をつなぐオンラインピル診療サービスを運営。デロイト トーマツの成長率アワードで第1位を受賞した急成長企業です。

坂梨さんが語ったのは、「3つの重要な出来事、2人の恩人、1つの決断」というフレームでした。

最初の出来事は、不妊治療の経験。身体的にも経済的にもかなりの負担がかかる日々の中で、「妊娠・出産は個人の課題ではなく社会課題だ」と確信したことが起業の原点になりました。しかし最初のサプリメント事業は大苦戦。黒字化が見込めない状況が続き、産婦人科医からは「こういう人たくさんいるんだよ。みんな消えていったよ」と言われる苦しい時期を過ごしました。それでも坂梨さんは「原体験は、苦しい時に立ち返れる強い経営資源」だと語ります。

2つ目の出来事は、「勝てる市場」を選んだこと。情熱だけでは足りない、市場を冷静に見て勝てる場所を探す。サプリ事業の失敗から得たこの教訓をもとに、人口統計や服用率のデータを分析し、オンラインピル診療に参入を決めます。プレリリースでは想定をはるかに超えるニーズが確認され、半年間かけて仮説を徹底検証した上で正式リリース。多くの産婦人科医に参画いただくサービスへと成長しました。

3つ目は資本による後発逆転。オンラインピル市場では後発だったmederiは、先行者企業の失敗を学べるという強みを活かし、早い段階で大胆な認知施策を実行。まだどの競合も第一想起を取れていないタイミングで全国テレビCMを投入するという意思決定が奏功し、一気にポジションを確立しました。

坂梨さんが「最も重要な決断」として語ったのは、「エゴを捨てたこと」です。自分がやりたい事業をやりたい、理想の持分比率を守りたい。そうした起業家としての執着が、成長の足かせになるタイミングがあった。判断基準を「何が社会に最もインパクトを与えて、勝てるか」に変えたことで、事業を伸ばすことができたと振り返ります。

上場準備中にM&Aという選択を迫られた局面でも、この基準が活きました。上場の不確実性と、より大きな資本のもとで成長させるという確実性を天秤にかけ、自分だけにベクトルが向いていることに気づき、メンバーや顧客、社会にとって何が最善かを考えた結果、レバレジーズグループへの統合を決断。グループイン後はマーケティング支援やシステム開発支援を受け、過去最高の業績を更新する見通しです。

質疑応答で「エゴと勝利の両立はできないのか」と問われた坂梨さんは、「女性のヘルスリテラシーを高められるユーザーを獲得できたこと自体が、自分の夢だった。夢と勝てる事業がたまたまマッチングしたのかもしれない」と答え、次の起業に向けた挑戦を語ってくれました。

第3ピッチ:高将司さん(株式会社LEVECHY)

「EO運動会で決めた覚悟、大きな目標に向かう泥臭い軌跡」

LEVECHYは2012年創業、オフィス仲介・オフィス再生(JPベース事業)・不動産クラウドファンディング(レベチーファンド)の3事業を展開する不動産企業です。外部資金調達なし、自己資金のみで事業を拡大してきました。

高さんのプレゼンは「失敗のシェア」が中心でした。EO入会当初は周囲の経営者に比べて事業規模が小さく、「こんなんじゃダメだ」という思いで参加を決めたと率直に語ります。

人生の転機は2018年のEO運動会。たまたまグリーンチームに振り分けられ、チームリーダーだった先輩会員の後藤さんと出会います。運動会後に開催された学びの場で大きな目標を掲げる覚悟が固まり、そこから事業拡大への挑戦が始まりました。

しかし、決意と実行の間には大きなギャップがありました。当時はオフィス仲介しかやっておらず、大きな成長への道筋が描けない。大手コンサルティングファーム出身者を経営に迎えたものの、起業家とコンサルタントの思考は根本的に異なり、うまくいかず業績悪化。2020年にはコロナ前に倒産の危機に直面し、複数の事業と人員を大幅に縮小して何とか立て直しました。

その後も危機は訪れます。事業拡大に伴い取引金額が巨大化し、不動産の決済タイミングのズレによるキャッシュフロー問題が発生。黒字倒産の瀬戸際で、EOや古くからの仲間からの支援で乗り切ったエピソードは、「誠実であり続けることで積み上げた信頼関係」が命綱になった瞬間でした。

大きな成長を実現するために実行したことは、大きく3つ。まず市場規模の選定、オフィス仲介の手数料モデルだけでは限界があると気づき、自社でビルを一棟買いする事業に転換。コロナ禍で「オフィス離れ」が進む中、逆張りでオフィスビルを買いに行くという決断が結果的に大当たりしました。次に事業ドメインの拡大、そして参入障壁の高い新規事業への挑戦として、不動産クラウドファンディングのレベチーファンドをスタート。投資家保護のために倒産隔離スキームを採用した、国内でもごく限られた事業者のみが持つライセンスを数年かけて取得しました。

高さんのメッセージはシンプルでした。「いきなり大きなことはできない。コツコツ準備して、慌てずに、人と比べずに、自分のペースでやる。でも、やると決めたら必ずやる」。その道のりは決して直線ではなく、2度の倒産危機を乗り越えた泥臭い軌跡でした。

質疑応答では、「大きな目標を掲げてから伸び悩んだ時期のボトルネックは何だったか」という問いに、「自分に自信がなくなったこと」と即答。大手コンサルに頼ったり、様々な施策を試したりした中で、後輩から「信じるのは自分自身じゃないですか」と言われたことが転機になったと語りました。

3人の経験シェアに共通していたこと

成長率アワード受賞者3名のプレゼンには、驚くほど共通するメッセージがありました。

原体験が経営の羅針盤になること。

黒﨑さんは20歳から毎日レシートをデータ化し続けてきた執念、坂梨さんは不妊治療で味わった絶望、高さんは「何も持っていない」からこその決断力。いずれも、苦しい時に立ち返れる原体験が事業の方向性を支えていました。

常識の外に答えがあること。

黒﨑さんは「領収書を回収する」という業界の常識外のサービスで突破し、坂梨さんは後発から大胆な認知施策で一気にポジションを確立し、高さんはコロナ禍にオフィスビルを買うという逆張りで急成長を実現しました。

EOが「決断の後押し」になったこと。

高さんはEO運動会での出会いが大きな覚悟を決めるきっかけになり、倒産危機ではEOの仲間の信頼関係が命綱になりました。坂梨さんはメンターシップを通じて次の起業を構想し、黒﨑さんはEO入会直後にキャッシュフローの相談を仲間にしたことが成長の起点になっています。

EO(Entrepreneurs’ Organization)は、年商1億円以上の創業経営者が参加するグローバルなピアラーニングコミュニティです。EO Tokyo Centralでは毎月、会員同士が経験をシェアし合うチャプターミーティングを開催しています。入会にご興味のある方は、ぜひ一度ガイダンスにお申し込みください。

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