2026年3月 Chapter Meetup レポート
Best Practice Share 採用編 ── 3人の経営者が語った「採用の本質」
2026年3月12日|EO Tokyo Central チャプターミートアップ @ ザ・リッツ・カールトン東京
3月のチャプターミートアップは、約160名が参加する大規模開催となりました。EO Tokyo Centralの会員に加え、名古屋をはじめとする他チャプターやアクセラレータープログラムの参加者、賛助会員企業の方々も集い、会場は熱気に包まれました。
今回のテーマは「Best Practice Share 採用編」。多くの経営者が最も頭を悩ませるテーマである「採用」について、異なるステージ・業種の3名の経営者が、自らの成功と失敗を赤裸々に語ってくれました。司会は株式会社FREEDiVE代表取締役の今井渉平さんが務め、映画館さながらの演出で会場の空気を一気に引き上げてくれました。

第1ピッチ:石井陽介さん(株式会社あつまる)
「どん底からの復活──個人ビジョン経営で、働きがいランキング日本1位へ」
石井さんは25歳で起業したものの、30歳のとき社員の反発を受けて自ら立ち上げた会社の社長を辞任するという壮絶な経験の持ち主です。「稼ぐ社員が偉い」「感謝という言葉の意味がわからない」──当時はそんな価値観で経営していたと、率直に振り返ります。
転機となったのは盛和塾での学びでした。そこから5年間、師と仰ぐ方に弟子入りし、経営哲学を叩き込まれた石井さんが行き着いたのが「個人ビジョン経営」。全従業員が10年後・5年後・3年後の人生ビジョンを言語化し、その集合体が会社の経営計画になるという独自の手法です。
この経営スタイルが花開き、Great Place to Work「働きがいのある会社」ランキングで4年連続日本1位を受賞。社員75名の会社に対し、説明会参加者は年間約7,000名を超え、100〜200名に1名の割合で内定を出すという圧倒的な採用力を実現しています。
石井さんが新卒採用を軸にする理由は明確です。第一に、理念を「仕事の当たり前」として共有できる人材を育てるため。第二に、自分の可能性を心から信じている人材は新卒市場にこそいるからです。説明会では事業内容や初任給の話を一切せず、5年後・10年後のビジョンだけを語る。「採用は恋愛。自分の奥さんを探すのに代理人は送らない」と語る石井さんは、月2回の説明会に自ら登壇し、選考にもほぼすべて参加しています。
質疑応答では、「夢見るいいやつ」をどう見抜くのかという問いに対し、「面接だけでは見抜けない。説明会後や選考後に懇親会を設けて、飾らない姿を見ることが大事」と答えていたのが印象的でした。

第2ピッチ:木村直人さん(株式会社Hajimari)
「離職率40%超からの逆転──仕組みで勝つ採用戦略」
Hajimariは創業11年、売上約140億円・社員200名規模のフリーランス・プロ人材プラットフォーム企業です。ITプロパートナーズを軸に、10万名以上のプロフェッショナルと4,500社の企業をつなぐ事業を展開しています。
木村さんが語ったのは、主力事業の離職率が40%を超えていた時期からどう採用を変革したかというリアルなストーリーでした。
特に目を引いたのは、採用プロセスの「型化」です。中途採用では、責任者1名で年間約40名を採用するという驚異的な体制を敷いています。その鍵は、エージェントへのペルソナ共有の深さにありました。従来の「営業経験2年以上・有形商材経験あり」といった表層的な条件から脱却し、「ブランド力に頼らない力をつけたい人」「一体感を持って部活のように働きたい人」「業務を通じて人生に貢献したい人」といった価値観ベースのペルソナを設計。エージェントに「こういう言葉を使う人がいたらHajimariを想起してほしい」と伝えることで、スペック競争ではない土俵で候補者と出会える仕組みを作り上げました。
もうひとつの大きなポイントが、クロージングの設計です。自社でツールを開発して全面接を録画し、トップリクルーターと新人の差分を分析。「上の人が何と言って人を口説いているか」を体系化し、誰でも再現できる形に落とし込んでいます。さらに、初回面談の段階でその候補者をどう採用するかというクロージングストーリーを設計し、相手の転職動機に最も刺さる切り口を意図的に選ぶ──この徹底ぶりには会場から感嘆の声が上がりました。
印象的だったのは、マネージャー採用に関する率直なシェアです。年収600〜900万円レンジの他社マネージャーを横移動で採用しても、ほとんどうまくいかなかった。一方で、元取締役や執行役員クラスの人材にマネージャーまで降りてきてもらうケースは成功しているとのこと。「前職でマネージャーが機能していたのは、そこまでに積み上げた信頼があったから。実力だけで転職先の信頼を勝ち取るには、格上の人が降りてくるしかない」という分析は、多くの参加者にとって腹落ちする内容でした。
また、社員200名に加えて約94名のプロ人材を活用し、社外CMO・CPO・CHROなどの経営機能を補完する体制も紹介されました。「プロ人材にもストーリーを共感してもらっている。業務委託の方々だけで集まると、どうやってHajimariを勝たせるかを議論していると聞く」という言葉に、組織文化の深さを感じました。

第3ピッチ:山木智史さん(株式会社Re-grit partners)
「300人体制で新卒100人採用──経営者の覚悟が組織を変える」
Re-grit partnersは創業9年目のコンサルティングファーム。社員480名、業務委託含め約800名、今期売上約90億円という急成長企業です。山木さん自身は学生起業を経てベイカレントに入社し、その後2017年に創業しました。
山木さんのシェアは、ノウハウではなく「本質」に焦点を当てたものでした。
創業時から「小さなアクセンチュア、小さなベイカレントにはならない」と決めていた山木さんは、第三極を目指す中で「きつかったけど、辞めた後にこの会社にいて良かったと思える会社」というコンセプトを掲げます。ワークライフバランスを全面に出す業界トレンドに逆行するメッセージですが、その信念を一切ブラさずにホームページ・説明会・面接のすべてで一貫して発信し続けた結果、ワンキャリアで2年連続ベンチャー企業口コミ評価1位を獲得しています。
最大の転機は、社員300名の時点で新卒100名採用を決断したことです。社内からは猛反対が起きました。しかし山木さんは「既存社員3人に対して新卒1人を見ればいい。スパンオブコントロールは多少崩れてもなんとかなる」というロジックを信じ、強引に推進。結果として、新卒の1年目離職率は5%以内に収まり、ほとんどのメンバーがプロジェクトに参画して事業成長に貢献しています。
ただし、山木さんはダウンサイドも隠しませんでした。一部の管理職層が疲弊し離職が増加したこと、独断的なやり方に不満を持つメンバーが現時点でもいることを率直に語りました。「この意思決定を正当化したいわけではない。うまくいけば正しかったと言われるし、うまくいかなければ批判される。でも、この不確実な意思決定に責任を持つことこそが、僕たち起業家の醍醐味だ」という言葉が、会場に深く響きました。
2026年新卒の母集団は1万8,000名と日本のベンチャー企業としてはトップクラス。その原動力は、社長自ら人事チームと伴走し、やりきる姿勢を見せ続けたことにあると言います。
「時期尚早」──初年度からの新卒採用も、100名採用の決断も、ずっとこの言葉を言われ続けてきたと山木さんは語ります。「常識で僕たちを測ることをやめよう。考え抜いたロジックを、最後は熱量で判断してほしい」。この言葉は、経営者として自分自身の意思決定に向き合うすべての参加者の胸に刺さるメッセージでした。

3人のシェアに共通していたこと
業種もステージも異なる3名でしたが、驚くほど共通するメッセージがありました。
経営者自身が採用の最前線に立つこと。 石井さんは説明会と選考にすべて出る。木村さんはハイレイヤー人材を自らのリファラルで採用する。山木さんは人事チームと伴走して自ら育てる。誰も採用を「人事部の仕事」にしていません。
新卒採用こそベンチャーが大手に勝てる領域であること。 3社とも新卒採用に大きく投資し、ポテンシャルの高い人材を自社のカルチャーで育てる戦略を取っています。
ビジョンと一貫性で人を惹きつけること。 条件面での競争ではなく、自社の信念や目指す世界観を正直に語り、それに共鳴する人材と出会う──3人が共通して強調していたポイントです。
テーブルワーク:参加者同士の経験シェア
ピッチの後は、各テーブルで参加者同士がワークシートを使って自社の採用課題や成功体験をシェアし合う時間が設けられました。160名が10人前後のテーブルに分かれ、自社の採用にまつわる経験を赤裸々に共有する──こうしたピアラーニングの場は、EOならではの醍醐味です。
「採用は経営そのもの」。今回のBest Practice Shareを通じて、改めてその言葉の重みを実感するチャプターミートアップとなりました。


EO(Entrepreneurs’ Organization)は、年商1億円以上の創業経営者が参加するグローバルな起業家コミュニティです。EO Tokyo Centralでは毎月、会員同士が経験をシェアし合うチャプターミートアップを開催しています。入会にご興味のある方は、ぜひガイダンスにお申し込みください。